サンプル脚本『身代わり妃は、嘘の香りを嗅ぎ分ける』第1話
AIアニメ・縦型ショートドラマ向け/1話約3分想定のサンプル脚本です。
設定メモ
世界:架空の東洋風の帝国。都の北に宮殿、南に下町がある。
香りのルール
- 人にはそれぞれ、その人自身の香りがある。鈴花はそれを嗅ぎ分けられる。
- 嘘をつくと、その香りに「焦げた香り」が混ざる。映像では、嘘をついた人の肩口から細い黒い煙が立ちのぼる形で表す。
- 黒い煙は、鈴花の視点のカットにしか映らない。
- 鈴花は香屋の娘として、毒草の香りも父から教わっている。
- 煌月からは、その人自身の香りすらしない。そのため、鈴花には煌月の嘘を判別できない。理由は第1話では明かさない。
これまでの経緯
- 皇帝・煌月の妃候補は、これまでに三人が婚礼の前に急死している。都では「皇帝が殺した」と噂されている。
- 四人目の候補は、宰相・蔡の姪の月華姫。婚礼の十日前に急死したが、蔡はその死を隠している。婚約がなくなれば、蔡の一派が宮廷での力を失うため。
- 蔡は月華と瓜二つの娘を探させ、婚礼の三日前、下町で鈴花を見つけた。
登場人物
- 鈴花(リンカ)17歳:香屋「鈴音堂」の娘で、父と二人暮らし。黒髪を簪一本でまとめ、麻の仕事着を着ている。指先にはいつも香の粉がついている。婚礼では紅の花嫁衣装。香りを確かめるとき、小さく「すん」と鼻を鳴らす癖がある。
- 煌月(コウゲツ)22歳:若き皇帝。銀糸の刺繍が入った黒衣に、切れ長の目。人前では表情を動かさず、「笑わない皇帝」と恐れられている。月華姫の死を、すでに知っている(第1話では明かさない)。
- 宰相・蔡(サイ)50代:白い髭に柔らかな笑み。いつも扇を持っている。
- 月華(ゲッカ)姫:故人。鈴花と同じ顔。生まれつき香りがわからなかった。
- 宦官:月華姫に仕えていた老いた宦官。
- 鈴花の父:香屋「鈴音堂」の主人。
第1話の流れ
想定尺:約3分。間や動作を含む尺は、読み合わせで調整。
- 寝所:皇帝に正体を疑われ、簪を突きつけられる
- 三日前・香屋:鈴花の能力を見せ、宮廷へ連れ去られる
- 輿の中:身代わりを命じられ、父の命を盾にされる
- 婚礼の宴:皇帝の異質さに気づき、毒入りの杯を払う
- 寝所:正体を見破られ、皇帝の言葉に翻弄される
脚本
表記:(M)=心の声/【映像】=光・色・カメラの指定
○ シーン1 後宮・皇帝の寝所(夜)
【映像】紅と金。燭台の火が灯る暗い部屋。喉元に突きつけられた、金の簪の寄りから入る。
紅の花嫁衣装を着た鈴花が、寝台の前で立ちすくんでいる。
背中には紅い帳。もう下がれない。
簪を握る皇帝・煌月は、冷たい目で鈴花を見据えている。
煌月「——お前、本物の姫ではないな」
鈴花の喉が、小さく上下する。
鈴花(M)「……三日前まで、ただの香屋の娘だったのに」
(暗転)
テロップ:三日前
○ シーン2 都の下町・香屋「鈴音堂」(昼)
【映像】明るく温かな昼の光。棚に並ぶ香の小瓶が、琥珀色に光る。
仕事着の鈴花が帳場に座っている。
奥では父が、薬研で香木を挽いている。
身なりのいい男が、帳場に小瓶を置く。
男「西域から取り寄せた、本物の沈香だ。高く買ってくれ」
鈴花、すん、と鼻を鳴らす。
【映像】鈴花の視点。男の肩口から、細い黒い煙が立ちのぼる。
鈴花(M)「……焦げてる。嘘の香り」
鈴花は小瓶の蓋を開け、軽く香りを確かめる。
にっこり笑って、男へ押し返す。
鈴花「お客さん。これ、ただの松脂ですよね」
男「なっ……!」
男は小瓶をひったくり、逃げるように店を出る。
父「また、鼻に助けられたな」
鈴花が得意げに笑いかけたとき、店先に大きな影が落ちる。
槍を持った兵士たち。その間から、老いた宦官が進み出る。
宦官は鈴花の顔を見て、息をのむ。
宦官「……姫様と、同じお顔……」
兵士が鈴花の腕をつかむ。
鈴花「離して! 父さん、助けて!」
父が帳場から駆け寄る。
その行く手を、二本の槍が遮る。
鈴花の指が帳場の縁を滑る。
木の上に、香の粉が細く残る。
○ シーン3 都の大通り・輿の中(夕方)
【映像】簾越しの夕陽が、鈴花の顔に赤と影の縞模様を落とす。
揺れる輿。
鈴花は膝の上で、両手を固く握りしめている。
向かいには宰相・蔡。扇を動かしながら、穏やかに微笑んでいる。
蔡「月華姫は七日前に亡くなられた。だが、陛下との婚礼は三日後だ」
扇が止まる。
蔡「あなたには、姫として嫁いでいただく」
鈴花「……断ったら?」
蔡は、簾の向こうへ目をやる。
遠ざかる香屋の前に、兵士が二人残っている。
蔡「お父上が、ご心配でしょう」
鈴花が腰を浮かせる。蔡の扇が、その膝を押しとどめる。
蔡「役目を果たせば、お父上の無事は約束しよう」
鈴花、すん、と鼻を鳴らす。
【映像】鈴花の視点。蔡の肩口から、細い黒い煙が立ちのぼる。
鈴花、息を詰める。
鈴花(M)「……嘘。従っても、父さんは……」
蔡「姫は香に関心を示さぬ方だった。人前で鼻を利かせる、その癖は慎みなさい」
鈴花は口元に袖を当てる。
その下で、唇を固く噛む。
○ シーン4 宮殿・婚礼の宴(夜)
テロップ:婚礼の夜
【映像】金と朱の大広間。無数の灯籠が輝く一方、居並ぶ重臣たちの表情は硬い。
一段高い席に、黒衣の煌月。
紅の花嫁衣装を着た鈴花が、侍女に導かれ、その隣へ座る。
重臣たち(ささやき)
「これで四人目か……」
「先の三人は、婚礼までもたなかった」
鈴花は、膝の上で袖を握る。
横目で煌月をうかがい、小さく鼻を鳴らす。
すん。
【映像】鈴花の視点。煌月の周りには、何も立ちのぼらない。
鈴花(M)「……香りがない。この人自身の香りまで」
侍女が、煌月の前に祝いの杯を置く。
煌月は杯に目を落とし、ほんの一瞬、目を細める。
鈴花が、ぴくりと鼻を動かす。
煌月の目だけが、鈴花へ動く。
鈴花(M)「苦い杏……父さんに教わった、毒の香り」
煌月が杯を持ち上げる。
鈴花「だめ!」
鈴花の手が、杯を払い落とす。
(SE)杯が割れる音
楽の音が止まる。
重臣たちの視線が、一斉に鈴花へ向く。
鈴花は伸ばした手を引けないまま、固まっている。
蔡が、ぱちりと扇を閉じる。
蔡「……姫様。お疲れのご様子ですね」
穏やかな声。だが、扇を握る指は白い。
鈴花は手を引き、うつむく。
煌月だけが、こぼれた酒と鈴花の顔を、静かに見比べている。
○ シーン5 後宮・皇帝の寝所(夜)
【映像】シーン1と同じ、喉元の簪から。会話が進むにつれて、二人の顔に寄っていく。
煌月「杯を払う前に、お前は匂いを確かめたな」
鈴花は答えない。
煌月「月華は、生まれつき香りがわからなかった」
鈴花の指先が、ぴくりと動く。
一瞬、蔡の声がよみがえる。
蔡(回想の声)「人前で鼻を利かせる、その癖は慎みなさい」
煌月「——お前は誰だ」
鈴花は唇を噛む。
震える手を握りしめ、煌月を見返す。
鈴花「……私が誰でも、あの杯に毒が入っていたことは変わりません」
沈黙。
燭台の火が、ぱちりとはぜる。
煌月は鈴花を見つめたまま、ゆっくりと簪を下ろす。
煌月「知っている」
鈴花「……え?」
煌月の口の端が、初めてかすかに上がる。
煌月「あの毒を入れさせたのは——私だ」
鈴花の目が見開かれる。
すん。
【映像】鈴花の視点。煌月の周りには、黒い煙ひとすじ立ちのぼらない。
鈴花(M)「……わからない。この人だけは、嘘か、本当か」
煌月が一歩、近づく。
鈴花は動けない。
(暗転)
テロップ:第2話「皇帝は、毒で誰を試したのか」
公開日 2026年10月20日
著作者 ゆの🐈⬛